いつもどんなウイスキーを召し上がっていますか?
ブレンデッドウイスキーのように飲みやすい物はお食事にも合わせやすく、シーンを選びません。
他、一日の終わりに、ドライフルーツを彷彿させるような甘いウイスキーに酔いしれていると、疲れを忘れるでしょう。
では、煙のような「ピート香」がする、ウイスキーは如何でしょうか?
苦手な方も多いと思います。
しかしながら、最初は苦手でも、ピート香のするウイスキーを飲んでいるうちにそれにすっかりハマってしまう事もあります。
それだけの魔力がピートには存在するのです。
是非、もっと豊かなウイスキーライフを送るために、ピート香のするウイスキーに挑戦してみませんか?
今回はそんなウイスキーのピートの魅力について解き明かします!
ピートとは「泥炭」
ピートは泥炭の他に草炭とも訳されます。
スコットランドのような寒冷地の酸性土壌で培われる、いわば石炭の幼子のようなものです。
そのピートについて詳しくご紹介致します!
ピートができるまで
スコットランドのような寒冷地を覆うのはほとんどヘザーという灌木かシダの類。
それらが推積し7000年〜1万年かけて炭化していきます。
ピートの生成には長い年月が必要で、例えばオークニ諸島の物は16000年かかっている物もあるといわれます。
そして、ピートの湿原(ピートボグ)よりピートカッターを使って切り出します。
その後、天日干しし、ようやくウイスキー製造に使用できる物になるのです。
ピートは麦を乾かすために使用する
ウイスキーを造る時一番最初に製麦を行います。これは簡単に言うと、麦に芽を出させて、細かく砕く作業です。
まず、水に麦を浸して芽を出させます。
その後、芽が出たら乾かさなければなりません。この麦芽を乾かす時に燃料としてピートを使用します。
そして、この時ピートを燃料として使用する事で、燻煙がつき、スコッチ独特のスモーキーフレーバーがもたらされます。
麦芽の乾燥を行う設備はかつてキルンと呼ばれる乾燥塔が用いられていました。緑麦芽を網目状の床におき、下から無煙炭やピートなどの燃料を燃やして、その熱で乾燥を行います。
尚、全乾燥をピートで行うと燻香が付き過ぎてしまうので、必要な量だけ付与させたら、無煙炭などに切り替えるのが一般的です。
現在実際にキルンで乾燥させているのはごく一部。
他は、工場で大量生産させたものを購入している蒸留所がほとんどです。
ピートの影響力を表すフェノール値
前述ご紹介した通り、ピートをどれだけきかせるかによってスモーキーフレバーが付与されます。
スモーキーフレーバーは、強弱を示す数値としてフェノール値が用いられ、単位はppmで表します。
すなわち、ppmは「スモーキーさの指標」であり、「フェノール化合物の濃度」を表しています。
簡単に言えば、この値が高ければ高いほど、煙たく感じる度合いが高いという事です。
ppmは「parts per million パーツパーミリオン」の略。
1ppmは0.0001%。
100万分のいくつなのかを表す単位です。
つまり、1ppmなら1L(1L=1kg=1000000mg)に1mgのピート成分が含まれているという意味です。
ウイスキーとフェノール 値の関係
ウイスキー | ppm |
ブルックラディ ザ・クラシック | 2〜5 |
タリスカー10年 | 18〜22 |
ボウモア12年 | 25〜30 |
ラフロイグ10年 | 40〜45 |
アードベック10年 | 55 |
ピートといえばアイラ島
ピートといえばアイラ島。
この島で造られているウイスキーはピートをふんだんに使用している物もあります。
今日の世界的なウイスキーブームは、アイラモルトのお陰と言ってもいいかも知れません。
しかしながら、40年前、大部分の人は”アイラモルト”を知らなかったそうです。もし知っていたとしても「薬品のような味がする」と言って嫌悪する方の方が多かったとか。
それが90年代後半からミレニアムにかけて、世界中でアイラモルトが人気に。
「ピートフリーク」という言葉を生み出すまでになりました。
現在、愛好家の中でアイラモルトを知らない人はいないでしょう。
ここでは、ピートの代名詞、アイラモルトとは何かを見ていきます!
「ピートフリーク」とは、ピートなしでは生きられない事。ピート中毒。
貴方の周りにもいませんか(笑)??
ウイスキーの聖地アイラ島
アイラ島はインナーへブリディーズ諸島の最南端に位置します。
南北約40km、東西約32km、面積620km2で日本の淡路島(592km2)より一回り大きな島です。
ただし人口は約3,200人と極端に少なく、島の最大収入源はウイスキー産業が担っています。
The Islay Festival of Music and Malt
毎年5月末に10日間程開かれるアイラフェスティバルは世界中からファンが訪れる島最大のイベントです。
これは、元々はゲール語文化伝承の音楽の祭典として始まったものです。
その後、アイラ島の蒸留所が協賛する事でウイスキーのイベントとしても周知されていきました。
例えば、後でご紹介するアードベッグは毎年このイベントに合わせて新シリーズが発売されます。毎年これをアードベッグファンは楽しみにしているのです。
アイラ島でウイスキー造りが盛んな訳
アイラ島でウイスキー造りが盛んになったのには、いくつか理由があります。
まず、ヘブリディーズ諸島の中では比較的気候が温暖で大麦の成育に適していた事。
島の4分の1程が厚いピート層に覆われ、ピートを入手しやすかった事。
そして、良質な水に恵まれていた事でしょう。
さらに、ウイスキー造りをアイルランドから最初に伝わったのがアイラ島だったという説もあります。他に手付かずの自然が残っている事も重要な要素でしょう。
アイラ島の独特な歴史
アイラ島に人が住み始めたのは今から1万年程前。中石器時代。今日のアイラ人の祖先は鉄器時代のケルト民族です。
それらケルト文化だけでなく、アイラ島には、北欧ヴァイキングの文化が色濃く影響しています。
それを証明するのが、アイラ島に残るヴァイキング起源の地名です。
しかし、アイラの歴史を独特なものにしているのは13世紀に登場した「ロード・オブ・ジ・アイルズ」と呼ばれる半独立国の海洋王国の存在です。
これはスコットランド王家とは別の半独立国でした。
その中心地がアイラ島で、島の北部ににあるフィンラガン湖の人工島に王宮とチャペルが築かれ、ヘブリディーズの島々に睨みをきかせていました。
この独立国は1493年にスコットランド国王ジェームズ4世に廃止されるまで約170年も続いたのです。
そして、今尚、アイラ島に影響を色濃く残しています。
ちなみに、「ロード・オブ・ジ・アイルズ」はその後スコットランド王家の称号になり、代々皇太子が受け継ぐ事になりました!
つまり、現在は、英王室チャールズ皇太子の称号の一つとなり受け継がれているのです!
アイラ島蒸留所一覧
1.ブナハーブン
2.アードナッホー
3.カリラ
4.アードベッグ
5.ラガヴーリン
6.ラフロイグ
7.ボウモア
8.ブルックラディ
9.キルホーマン
ライトタイプのウイスキー、ブナハーブン
アイラ島の蒸留所の中で一番北に位置するブナハーブン。
ゲール語で「河口」を意味します。蒸留所が建てられたのは1831年で生産は1833年に開始。
元々、カティサークやフェイマスグラウスといったブレンデッドの原酒として造られていました。
ほとんどの製品は、ノンピート麦芽やライトピーテッドの麦芽を使用。
しかし、近年ヘビリーピーテッド麦芽を使用した製品も造られるようになりました。
従来の製品はアイラでは珍しく、ライトタイプのウイスキーです。
甘みの後に少しだけ感じる煙たさが魅力。
初心者がロックで飲んだとしても、クセをさほど感じないでしょう。
アイラ島最大の生産量を誇る、カリラ
スコッチのブレンデッドウイスキーの中でアイラモルトが入っていないものはないと言われます。その主要な部分を担っているのがカリラ蒸留所です。
生産規模はアイラ島最大。カリラとはゲール語で「アイラ海峡」の意味です。
文字通り、蒸留所の横を潮流激しいアイラ海峡が流れています。
このメリットは、冷却水に海水を利用出来る事です。海の恵みを一身に受けたウイスキーと言えるでしょう。
麦芽は34〜38ppmのラガヴーリンと同じも物を使用。しかしながら酒質は全く違います。
これはポットスチルの形状に由来するそうです。
背が高く大きなスチルで、ラインアームが並行になっています。
これにより、オフフレーバーが留液まで到達し辛く、非常にクリーンな酒質を造り出すのです。
口に含むと煙さにびっくりされるかもしれませんが、その後梨のような香りが続きます。
スモーキーだけどライト。これがカリラの特徴なのです。
世界的な人気を支えるケルトの守護神、アードベッグ
世界中でカルト的な人気を誇るアードベッグ。
ゲール語で「小さな岬」の意味ですが、その存在感は全モルトの中でも群を抜いています。
まさにケルトの守護神。
使用するのは55ppmの麦芽と非常にスモーキー。
けれども、口に含んだあと舌で転がしていると、バニラのような甘みを感じられます。
これは再留釜のラインアームの所に取り付けられている、精留器によるものです。
精留器のおかげで、留液が銅に触れる部分が大きくなり、オフフレーバーをより吸収してくれるのです。結果、スモーキーでありながらスイートな個性を作り出しています
現在アードベックは生産量を倍増させる計画実行中。
これから先も目が離せない蒸留所の一つです!
アードベッグの種類
アードベッグには色々な種類があります。
今回その中で二つだけご紹介します!
アン・オー
「アン・オー」とは蒸留所を構えるアイラ島のオー岬にちなんで名付けられました。
バーボン樽・シェリー樽・新樽、で熟成させた3種類の原酒を混ぜ合わせた製品。
まさに三方良しと言える素晴らしいバランスです。
スモーキーさとピート香を残しつつも、ふわりと香るバニラ香に魅了されるでしょう。
初めてアードベッグを飲む方にもオススメです。
コリーブレッカン
アイラ島付近にある大きな渦潮「コリーヴレッカンにちなんで名付けられた製品。
強烈なピート香を放ち、口に含むとパーンと何かが弾けたかのような印象を持たせます。
その後チョコレートのような甘みが口いっぱいに広がります。
個性が強烈なので、ハイボールにしても負けず、味が崩れません。
是非お試し下さい!
アイラの巨人、ラガヴーリン
“モルトウイスキーコンパニオン”の著者である故マイケルジャクソン氏が「アイラの巨人」と絶賛したラガヴーリン。
一口飲めば、スモーキーさが口に広がり、その後バニラやカスタードなど色々なタイプの甘みがいく層にも重なります。
この重厚さをマイケルジャクソン氏は巨人に喩えたのかも知れません。
特筆すべきはポットスチルの形状です。どれもくびれのないストレートヘッド型です。
さらに、ラインアームもかなりの急角度で下方に曲げられています。
このポットスチルの形状がラガヴーリンの個性を生み出しているのです。
アイラモルトで一番売れているウイスキー、ラフロイグ
フロアモルティングを現在も尚続けるラフロイグ。
年間売上本数も370万本とアイラNo.1を誇ります。
フロアモルティングによる自家製麦芽のフェノール値は45〜50ppmで、他は34〜38ppmの物を使用。それらを混合して製造しているのもユニークな点です。
ラフロイグは正露丸の匂いがすると苦手意識の強い方もいらっしゃると思います。
それ故、初心者はソーダ割りからはじめて見るのがいいかも知れません。
きっと虜になるに違いありません。
創業240周年を超えるアイラモルト最古の蒸留所、ボウモア
アイラ島中心地、ボウモア町に1779年に創業したボウモア蒸留所。
ボウモアとはゲール語で「大いなる岩礁」の意味です。
その様子はまるで海に浮かぶ要塞。
ラフロイグ同様、多くの蒸溜所が自家製での工程をやめた中、ピート採掘やフロアモルティングなどの伝統を守り続けています。
その頑固さが世界中のファンを魅了しているのです。
また、ボウモア蒸留所の特筆する点は、貯蔵庫が海抜0mに位置している事です。
その環境を受け、酒質には独特の潮香があります。
それでいて、すっきりとした味わいなので、ハーフソーダなどにしてピート香を楽しみつつ、爽やかに飲むのもオススメです。
アイラ島への経済貢献度No.1、ブルックラディ
これを口に含むと一瞬「あれ?アイラモルト?」と思われるかも知れません。
それもそのはず。
定番商品ブルックラディ ザ・クラシックの製造には、ほとんどピートを使いません。
そのため、大体のアイラモルトが持つ、スモーキーさはあまり感じられないのです。
元々、2001年に復活を果たすまでブルックラディはアイラ蒸留所の中で最も目立たない存在でした。
それを一気に変えたのが伝説の男ジム・マッキューワン氏。
氏は、特にスコッチに”テロワール”という概念を持ち込んだ事で世界中から注目を浴びました。
アイラ産の大麦を使用する事にとことん拘り、今では年間に必要とする大麦の42%をアイラ産で賄えるようになりました。
また、小さな蒸留所でありながら、雇用人数はアイラ島ダントツトップ。
これだけアイラ島の経済に貢献している蒸留所は他にありません。
アイラモルト初心者が最初に挑戦するのに相応しいウイスキーです。
世界最強のピート香、オクトモア
アイラモルト愛好家達が敬愛するウイスキーのひとつ、オクトモア。
ブルックラディ蒸留所で造られているブランドの一つです。
先にご紹介したものとは違い、世界最強のピート香を持つと言われています。
なんと、シリーズの中にはフェノール値200を超えるものも。
しかしながら、飲み口が柔らかいため、煙がいきなり襲ってくる感じはしません。
バニラやオレンジのような風味も後からついてきて、バランスよくお楽しみ頂けます。
ただし、スモーキーさは強いので、最初はロックなどで飲むよりも、ソーダ割りや水割りなどでお試し頂くのが良いかも知れません。
アイラ唯一の”フィールド・トゥ・グラス”、キルホーマン
キルホーマン蒸留所の合言葉は”フィールド・トゥ・グラス”。
「自分達の畑から消費者のグラスまで」をモットーに快進撃を続けています。
キルホーマン蒸留所は、他のアイラモルト蒸留所と違い農場の一角にあります。
その自社畑で大麦を栽培し、それを自社で製麦。自家製麦を4割(フェノール値25~30ppm)、残りの6割はポートエレン製(フェノール値50〜60ppm)使用しています。
そして、その後製造、熟成、ボトリングまで全てアイラ島で行う唯一の蒸留所です。
フェノール値が50ppmもあるので、かなりのスモーク感を楽しむ事ができます。
また、そこへ、ユリの花のような香りとバニラ香が共演しています。
ただし、蒸留所が設立されてまだ日が浅いため、熟成年数が少ないです。
それ故余韻が控えめです。
そのため、ストレートがオススメですが、アルコールの弱い方はどうぞハーフソーダなどでお試し下さい。
アイラ島の新星、 アードナッホー
老舗ボトラーズ「ハンターレイン社」によって2018年10月に製造を開始しました。
スコットランドの法律では、3年以上熟成させなければ、ウイスキーとして販売できません。
それ故、シングルモルトとして飲む事ができるのはまだ先です。
特筆すべきは、コンデンサーにワーム式を採用している事です。
この方法は、コストや時間がかかるので大量生産に向かない事から、近年採用する蒸留所はあまりありません。
しかしこの方法を採用すると濃厚なウイスキーに仕上がります。
どんなウイスキーが出来上がるか。私達の所まで運ばれてくるのが待ち遠しいですね。
アイラ島以外のピートの楽しめるスコッチ
アイラ島以外にもピートを楽しめるスコッチはあります。
ここではそれらについてご紹介しましょう!
スカイ島の自然が育てた酒、タリスカー
タリスカー蒸留所が設立されたのは1830年。製造開始は1831年です。
当時、スカイ島には合法、非合法を含めて7つのウイスキー蒸留所がありました。
しかし、当時から残っているのはタリスカーのみです。
それだけ古くからスカイ島の自然の恩恵を受け、人々に愛され続けたタリスカー。
特徴はなんと言っても潮の香り。
特に炭酸で割ると潮の香りが引き立てられます。
これだけハイボールと相性がいいウイスキーも類を見ないでしょう。
また、ブラックペッパーを上からかけてお召し上がり頂くのもオススメです!
スコットランド最北の蒸留所、ウルフバーン
蒸留所オーナーのアンドリュー・トンプソン氏は、元通信インフラ会社の経営者です。
その通信インフラ会社を売却してウルフバーン蒸留所を建設しました。
なかなか異色な例です。
創業は2012年。
それまでは、スコットランド最北の蒸留所はウィックのプルトニー蒸溜所でした。
しかし、ウルフバーンはその座を奪取し、最北となり脚光を浴びました。
また、トンプソン氏の前職は通信インフラですが、蒸留所は機械化をせず出来るだけ人の手を使う事に拘っています。
このギャップが面白いですね。
鼻を近づけてみるとバニラ香や桃の香り、ピート香などが感じられます。
そのピート香も決してきつくもなく、口当たりの良いウイスキーなので初心者にもオススメです。
関連するウイスキーコニサー資格認定試験問題を紹介
いかがでしたか?
ウイスキーとピートの関係についてご理解頂けたでしょうか?
是非、知識を定着させるためにもウイスキーコニサーの問題を説いてみましょう!
ウイスキーコニサーとはコニサーとは「鑑定家」の意味で、ウイスキー文化研究所が主宰する、ウイスキーに関するあらゆる知識、鑑定能力を問う資格認定制度です。
資格には3段階あり、第一段階の「ウイスキーエキスパート」に始まり、「ウイスキープロフェッショナル」、そして最終段階の「マスター・オブ・ウイスキー」と段階を踏んで取得していきます。
ウイスキーコニサーとは
問題
【問】フェノール値について以下の語句を用いて説明せよ ”ピート” “ppm”
解答
フェノール値とは「ピート」を燃料にして麦芽を乾燥させた時に付与されるスモーキーフレーバーの強弱を表す数値。
単位は「ppm」で表します。
まとめ
いかがでしたか?
ウイスキーを選ぶ際に、まず、ピートをどれだけ使用したウイスキーなのか調べてみて下さい。
製造過程でピートを使用していても、初心者がお楽しみ頂けるウイスキーはたくさんあります。
その時参考になるのがフェノール値です。是非、本稿を参考に挑戦してみて下さい。
きっと新しい世界が開けていくと思います。
皆様のウイスキーライフがよりもっと豊かになりますように!
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