ウイスキーの個性は樽によって形作られます。
出来立ての荒々しいスピリッツが、柔らかく芳醇な香りとなるのは、樽の影響を多分に受けているのです。
そして、この樽は、サイズや原料など種類も様々。
樽の種類とその特徴を知り、お好みのウイスキーを見つけてみて下さい。
ウイスキーをネットで購入する時やバーで飲む際にお役立ててれば幸いです。
ウイスキーの味を決める重要な要素、樽熟成とは
樽熟成の歴史 「始まりは税金逃れ対策だった」
ウイスキーがいつから作られるようになったのかは、よくわかっていません。
しかしながら、1949年のスコットトランド王室の出納記録に
「ジェームズ4世の命により、修道士ジョン・コーに 8ボルの麦芽を与えてアクアヴィテをつくらしむ」
とあるので、その頃には作られ、王が嗜んでいたのでしょう
「アクアヴィテ」とは命の泉の事。
中世、蒸留技術は錬金術師たちによって急速に広まりました。
彼らは、ラテン語で蒸留酒を「アクアヴィテ」と名付けたそうです。
実際、当時は薬にも使われたとか。
これをゲール語にしたものが「ウイスキー」
ウイスキーに対して課税が初めて行われたのは1644年。
その後、1707年イングランドがスコットランドを併合。
それまで、スコットランドは議会をもつ独立した国家でした。
イングランドと同君連合となり(1603)、ピューリタン革命の過程でクロムウェルに征服(1651)。
さらに1707年議会まで合同となってイングランドに併合され、ついに国家として消滅したのです。
スコットランドがイングランドに併合されると、ウイスキーに対する課税もより厳しいものとなりました!
イングランドへの反感と課税を嫌う人々は山奥をへ逃れ、密造が始まりました。
この密造時代に現代のウイスキー造りの基礎が完成されたのです。
大麦麦芽を乾燥させるのに近くにあったピートを使用、造った原酒を隠すのに空き樽を使用しました。
現在、味わっている美味しいウイスキーは、この課税対策の副産物なのです。
樽の貯蔵・熟成の目的
蒸留直後の蒸留酒は、刺激が強く、荒々しい舌触りと味が特徴です。
それ故、味わいが強く、活力を与えこれが「生命の泉」(オード・ヴィー)や「酒精」(スピリッツ)と呼ばれます。
しかしながら、醸造酒に比べてアルコール度数もクセも強い。
そこで、元の酒の基本的な性格を変える事なくより美味しいものにするために樽熟成を行います。
その際に有効な保存容器として木製の樽が使用されて来ました。
この樽熟成にかかる時間はウイスキー造りの中で90%以上を占めます。
仕込み〜蒸留までは半月に満たないで完了しますが、長期熟成のものになると30年寝かせる事も。
つまり、ウイスキーは樽の中でゆっくりと長い年月過ごさなければならないのです。
長い期間保管してようやく製品化。
長熟ウイスキーが高価になるのは、当然か〜
【樽の中で起こっていること】
・蒸留直後のオフフレーバー(嫌な香り、欠点となる成分)を取り除く
・微妙なフレーバー(複雑さ)を増加させる
・全体的に円熟味、円滑さ(まろやかさ)を増加させる
樽貯蔵の作用
主な作用は下記の通りです。
エステル化については下記を参考にして下さい!
貯蔵中に水やアルコールなどは蒸散し、ウイスキー量は2〜3%ずつ減少していきます。
これは「エンジェルズ・シェア(天使の分け前)」と呼ばれます。
熟成中は樽を介して水が出入りしますが、アルコール度数によって樽材からの溶出量が異なります。
また、63%前後がピークで高すぎても低すぎても溶出量は少なくなります。
つまり熟成の進行度合いは、樽詰め度数と貯蔵環境に影響されるのです。
樽熟成の捉え方と3つの概念
ルイ・パストゥールによる定義 「熟成とは、樽の中にわずかな酵素が取り込まれることで、酒中のアルコールと有機酸によるエステル化の形成、酸化による重合や分解による味の変化である」
ルイ・パストゥールは「ワクチン」の名付け親。
フランスの細菌学者で「細菌学の父」と呼ばれています!
熟成を3つの概念に分けて考えてみましょう!
貯蔵中に減少 | 硫黄化合物 (DMS,DMDS) ※未熟成感に関与するもの |
貯蔵中に発現・増加 (樽材からの分解・溶出) | バニリン、タンニン、クエルクスラクトン ※熟成感に関与するもの |
貯蔵中に発現・増加 (エステル化反応の進行) | カプロ酸エチル、カプリル酸エチル |
変化なし | 高級アルコール類、高級脂肪酸類 (高沸点成分) |
熟成中にウイスキーの中に溶け出す成分は100種類ぐらい確認されています!
中でも香味成分として知られているのがラクトン類に属し、ココナッツの様な香りを持つ、クエルクスラクトンです!
例) パイナップル香や果実様として知られるカプリル酸エチル(熟成感)は、エステル化の進行で時間と共に量が増えていく。
さらに、水とアルコールが時間と共に減るので構成比率も増加する。
詳しくは、下記の本でチェックしてみて下さい!!
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新樽を使うのか再利用するのか
新樽を使う
一度も熟成に使用されていない樽を「新樽」と呼びます。
新樽に入れて熟成させると、樽本来の成分がダイレクトにウイスキーへ伝わります。
例えば、新樽にはタンニンが多量に含有されており、それがウイスキーに移っていくので渋味が加わ流のです。
アメリカのケンタッキー州で主に造られているバーボンはこの新樽を使わなければなりません。
連邦アルコール法により”内側を焦がしたオーク樽の新樽で熟成させる“と厳しく定められています。
他、カナディアンやアイリッシュウイスキーなどにも使用されます。
使用済の空樽を再利用する
スコットランドや日本では、シェリーやバーボンを入れた後の樽が主に使用されます。
前項の通り、新樽を使うと樽材成分が出過ぎて、風味・香味がきつくなります。
繊細であるべきスコッチウイスキーは、極端な香気を嫌うのです。
また、スコットランドは気候が厳しく大木は育ちません。
そのため、新樽は貴重でなかなか手に入りません。
それ故、古くからシェリー樽やバーボン樽を再利用していました。
さらに、1964年にバーボンの新樽使用が義務づけられると、アメリカから入ってくる大量のバーボンの空き樽を益々使用していくようになります。
日本はそのスコットランドの手法を真似しています。
樽を再利用したウイスキーは新樽の物よりも、柔らかくデザートの様なウイスキーが多いのが特徴です。
特にバーボン樽の内側を焦がした樽で熟成すると、”バニリン“が生まれバニラアイスクリームの様な味わいに仕上がります。
樽に使用する木材の種類
アメリカンホワイトオーク
ウイスキー樽に使われる代表的品種。
スコッチの9割はこれが使用されています。
ホワイトオークは学名”クエルクス・アルバ”、美しい白い木という意味です。
このホワイトオークは北米にしかなく、東部や中部の大森林地帯に生えています。
ホワイトオークで造られた樽は漏れが少なく、密閉性が高いのが特徴。
さらに、外からの湿気も通しにくいため木材を腐らせる腐朽菌もほとんど入って来ません。
勿論、完全に密閉させたいのならステンレスで良いのですが、それでは熟成に必要な”呼吸”が出来ません。
このように、ホワイトオークは「密閉と呼吸」その両方を担う事のできる優等生なのです。
他、ホワイトオークには、ウイスキーの香味に大きな影響を与えるタンニンやカテコールなどが沢山含まれています。
これらの成分が熟成期間中にウイスキーと結合して、美しい琥珀色と香味成分を造るのです。
コモンオーク(スパニッシュオーク)
ヨーロピアンオークの代名詞であり、イギリスでは「森の王」などと称されます。
学名は”クエルクス・ロブール”、美しい白い材という意味です。
非常に大きな木で、50mにも成長し、1000年を超える樹齢を持つものも。
この種のうち、フランスのリムーザン地方で育ったリムーザンオークはコニャックやブランデーに利用される事で有名。
白ワインの熟成樽として好んで使うワインメーカーも。
このコモンオークの中でもスペイン産をスパニッシュオークと呼びます。
そして、スパニッシュオークはスペインワインやウイスキーの熟成によく使われます。
特に、スコッチの熟成に使用した場合、独特のフルーティーさや渋味、重厚さをもたらしてくれます。
しかしながら、近年良質な樽(特にシェリーを入れた後の樽)の入手は困難。
そのため、マッカラン(エドリントングループ社)の様に、自前で樽材の選定に当たる会社まで出て来ました。
セシルオーク(フレンチオーク)
このセシルオークがヨーロッパ産二大オークのもうひとつ。
学名は”クエルクス・ペトラエア”、美しい岩石と言う意。
その名の通り、乾燥し痩せた土壌でも生育する事が出来るくらい頑丈です。
ワイン樽の多くがこのセシルオークを材料としています。
フランスのトロンセ地区、ヌヴェール地区、アリエ地区などが主要産地。
それ故、フレンチオークと言った場合フランス産という意味の他に、セシルオークを指す場合も。
加えて、出来上がったウイスキーはタンニン量が多くスパイシーな香りがします。
ミズナラ(ジャパニーズオーク)
日本固有のオーク。
学名は”クエルクス・モンゴリカ”
北海道、樺太、中国東北部にかけて広く植生しており、明治以降に建材・内装材として盛んに使われて来ました。
ホワイトオークなど洋樽材に比べてチローズが少ないため、透過性が大きく、容器として漏れやすいため「ミズナラ」という名に。
その特徴を最大限引き出すため、この樽を使用する際は長期間熟成します。
また、これに貯蔵したウイスキーは白檀や伽羅に通じる独特な香りが付与されます。
いわゆるお香とか、お線香の様な香りです。
しかしながら、希少なため、高価なのが難点です。
産地・名称 | アメリカンオーク | フレンチオーク | |
種類・名称 | ホワイトオーク | コモンオーク | セシルオーク |
主な用途 | バーボン ウイスキー | コニャック ブランデー | ワイン |
材の木目 | 細かい | 粗い | 非常に細かい |
チローズ | 豊富 | 少なめ | |
樽価格 | 安価 | 高価 | |
樹幹 | 通直 | ややねじれあり | |
タンニン含有 | 少なめ | 多い | 少なめ |
オークラクトン含有 | 多い | 少なめ | 中間 |
バニリン含有 | 少ない | 多い | |
バニリン香 | 強い | 控えめ | |
総フェノール含有 | 少なめ | 多い | |
全体的な香り | 中間 | 控えめ | 強め |
代表的な樽のサイズ
バレル
容量は180L〜200L。
フランス語の「樽」barilを語源に持ち、従来40UK ガロン(182L)の樽でした。
アメリカンホワイトワークを材料にバーボンウイスキー、カナディアン用として作られ、スコッチ・ジャパニーズ他各国で再使用品が用いられています。
ここ数年でアメリカの製樽メーカーは、標準的な容量を200Lに変更して来ています!
ホグスヘッド
容量は250L。
昔はox-head(牛の頭)とも呼ばれていましたが、現代は豚一頭の重さと同じ事から、こう呼ばれます。
バーボンバレルを解体し、側板を増やして切り揃え、胴回りを大きく作り直した樽です。
そして、外見はやや寸胴。
55UK ガロン(250L)が標準で、220〜250Lのものがスコッチ用によく使われます。
パンチョン
容量は500L。
元々ビール用 72UK ガロン(327L)とスピリッツ(ラム)用の 120UK ガロン(545L)がありました。
けれども、日本ではサントリーが480〜500Lのものをウイスキー熟成用に作っています。
材は北米産ホワイトオークが主。
バット
容量は500L。
「バット」の由来は、”大きい樽”を意味するラテン語です。
シェリー樽を一般にシェリーバットと呼び、標準は110UK ガロン(500L)で480L程度の樽もたくさんあります。
並びに、シェリーの輸送用として、主に北米産のホワイトオークまたはヨーロピアンオークを材料として作られます。
また、ウイスキー生産者が独自に作った樽を持ち込み、シェリーを一定期間充填(シーズニング)して使う事もあるそうです。
ウイスキーの樽の種類とおすすめウイスキー
ここからは、樽ごとにおすすめウイスキーをご紹介致します。
是非参考までにお試し下さい!
アメリカンオーク樽
ザ・バルベニー スイートトースト オブ・アメリカンオーク 12年
グレンフィディック蒸留所の隣のバルベニーです。
アメリカンオークの樽で熟成させたモルト原酒。
特に、ハーフソーダなどで飲むのがおすすめです。
そうやって飲むと、バニラアイスクリームの様な風味を存分に味わう事が出来ると思います。
非常にレアなボトルなので、お早めに!
ヨーロピアンオーク樽
グレンドロナック 12年
レーズンの様な甘みをじっくり楽しみたいなら、こちらがおすすめです。
辛口のオロロソと極甘口のペドロヒメネスシェリーの空き樽を使用。
オイリーなウイスキーなので、ストレートに少しずつ水滴を垂らしてみると、味の変化がより楽しめます。
是非お試し下さい!
ミズナラ樽
イチローズモルト ミズナラウッドリザーブ MWR リーフラベル
「MWR」とはミズナラ・ウッド・リザーブの事。
ラベルに書かれている葉はミズナラをイメージしています。
羽生蒸留所のモルト原酒をキーモルトにし、複数のウィスキーをバッティング。
その後ミズナラリザーブヴァットで再熟成させています。
残念ながら、バッティングされた原酒の蒸留所名は公表されていません。
口に含んだ瞬間はコーヒーの様。
その後、ピート香に続き、そこへ郁層にも味が重なる。
深く楽しむ事ができるウイスキーです。
こちらも、入手困難となっていますので、見かけたらぜひ!
ソーテルヌ樽
ソーテルヌ は、フランスのAOCワインの1つ。
セミョン種とソーヴィニョン・ブラン種のブドウで作られる貴腐ワインです。
このワイン樽を使用した場合、非常に甘口のウイスキーが出来上がります。
グレンモーレンジィ ネクター ドール ソーテルヌカスク 46度
これぞデザートウイスキー。
ハチミツの様な甘みの後にレモンの様な香りが口一杯に広がります。
一日の最後にゆっくりお召し上がり頂ければその日の疲れも癒されるでしょう。
今まで苦手だった方もお楽しみ頂けるウイスキーです。
そのため、人を選びません!プレゼントなどにもおすすめです!
ポートワイン樽
ポートワインとは、ポルトガルのドウロ地方で造られる酒精強化ワインです。
(ブランデーを添加したワイン)
ポートワインは、アルコール発酵中にブランデーを添加し、発酵を中断させて作ります。
それ故、ブドウがそのまま残っており、果汁の甘みをダイレクトに味わえます。
タリスカ ポートリー
アメリカン・オーク樽とヨーロピアン・オーク樽のリフィル樽、焦がした樽の3種を熟成させ、原酒をヴァッティング。
その後、ポートワイン樽で数か月寝かせています。
「ポートリー」とは、スカイ島の主要港。
ポートワインとポートリーをかけている所がオシャレですね。
タリスカ独特の荒々しさの中に、ポートワインの甘さが絡み付きます。
味がしっかりしているので、ソーダで割っても負けません。
是非お試し下さい!
ビール樽
イチローズモルト 秩父 IPA カスク・フィニッシュ
常に挑戦を続ける秩父蒸留所。クラフトならではでしょう。
色々な樽でフィニッシュさせた物を製造しています。
こちらのアイテムは、非常に珍しいIPA樽フィニッシュの物。
IPAとはインディアペールエールの略。
通常のビールと大きく違うのは、ポップを大量に投与する事です。
そのため、ポップの苦味やフルーツの様な香りを存分に味わう事が出来ます。
そしてこのウイスキーもその味を引き継ぎ、果物の様な香りとともに、麦の甘さの中に苦味が混ざって味に奥行きを持たせています。
お値段は高めですが、それ以上の価値があります!
是非、多彩なフレーバーをじっくりとお楽しみ下さい!
ラム樽
デュワーズ カリビアンスムース8年
8年以上熟成させたグレーンウイスキーとモルトウイスキーをブレンド。
そして、再度熟成するダブルエイジ製法を採用し、さらにラム樽でフィニッシュさせたウイスキーです。
黒砂糖ような甘い香りとパイナップルのような味わいのバランスが絶妙です。
普段からデュワーズを飲んでいる方も、同じ銘柄とは思えずびっくりされるでしょう。
是非飲み比べてみて下さい!
まとめ 〜樽がウイスキーを育てる〜
樽は水や空気を出入りさせながら、荒々しいウイスキーをまろやかに変貌させます。
これをウイスキーが呼吸していると言うそうです。
前述の通り、貯蔵樽の呼吸の原動力は、水と空気の循環。
そして、人智を超えた、この循環系の中に長く置かれながらウイスキーは育っているのです。
容器である樽はこの循環を邪魔しない様に、充分に蒸留所の環境に慣らされた樽材で丁寧に作られます。
加えて、人は水と空気の循環が滞りなく行なわれる様に心を配ります。
こうしてゆっくり着実にウイスキーは育っていくのです。
自然の恵みと、心を配る人々全てに感謝をしてじっくり味わってみて下さい!
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