ここ数年空前のウイスキーブーム。歴史の中でも最大のブームを迎えているといっても過言ではありません。しかも、従来であればブレンデッドウイスキーが主流だった市場で、モルトウイスキーの売上が飛躍的に伸びています。
皆さんも「モルトウイスキー」という言葉は聞き覚えがあるのでは?
モルトウイスキーには旨さや作り方のディテールを知ってしまうと、抜けられない魅力があります。語ろうとしても語り尽くせぬ面白さがあります。
今回はその”モルトウイスキー”を奥深くまで探り、何を語りかけてくれるのか耳をすませてみましょう!
モルトウイスキーの原料は何?
モルトウイスキーは、大いなる自然の恵みを封じ込めた酒。
では、原料は何でしょう?ボトルの裏にある品質表示を見ると「モルト」だとか「グレーン」だとか記載されていると思います。
まずは、それらをご説明します!
モルトとは大麦麦芽のこと!
モルトとは大麦麦芽の事です。モルトウイスキーはこれを原料に作られます。
そして、大麦ならなんでもいいかと言うと、そうもいきません。モルトウイスキーの製造に使うのは二条大麦だけです。(近年クラフト蒸留所の台頭により、例外もある)
大麦は穂の形により、二条と六条に大別され、二条大麦は粒が二列に付き、別名ビール麦とも言われます。二条大麦はデンプンが豊富でアルコール収集率が良いため、古くから、モルトウイスキーの製造にはこちらが使用されてきました。
グレーンとはトウモロコシなどの穀物!
先の項でご紹介した「モルト」以外にウイスキーの原料となるのが「グレーン」です。
「グレーン」とはトウモロコシ、小麦、ライ麦、未発芽の大麦などの総称です。
これらで作られた、グレーンウイスキーは、モルトウイスキーと混ぜ合わされてブレンデッドウイスキーが生まれます。
また、ほとんどがこのように、グレーンウイスキーはブレンデッドウイスキーの原酒とされるのです。
モルトを使うとどんなウイスキーができる?
モルトウイスキーの特徴は、なんと言っても個性豊な事です。
蒸留所ごとそれぞれ全く違う顔に変貌します。例えば、食事に合わせても、邪魔にならない物から、正露丸のような香りのする物まであります。
これだけ、その土地の歴史・自然・文化のエッセンスがふんだんに盛り込まれた飲み物は他に類をみないでしょうね。
モルトの製造工程
アルコールの製造は酵母が食べて二酸化炭素とアルコールに分解することから始まります。要するに今回の場合、大麦の中にあるデンプンを発酵させれば良いのです。
しかしながら、ここで問題が!デンプンのような分子量の大きい物は酵母は食べられません。
そのため、デンプンを小さくする製麦・糖化といった工程が必要になります。
それならば、どうやって小さくするのか?その製麦工程についてご紹介します!
製麦の目的とポイント!
①大麦を発芽させ、デンプンを糖にタンパク質をアミノ酸に変えるために十分な酵素を大麦粒中に生成する
②大麦中のデンプンとタンパク質が、容易に水(温水)に溶ける状態にする
③加熱乾燥時に特有の香りと色をつける
第1段階「保管・選麦」
収穫直後の大麦は発芽しない休眠期間(ドーマンシー)があります。そのためサイロと呼ばれる保管庫で一定期間(一般的に2〜3ヶ月)保管します。
かつてはこのドーマンシーが長かったため、なかなかウイスキーの仕込みにかかれず、年末から製造に取り掛かるのが一般的でした。
けれども、近年品種改良により休眠期間を設けなくても問題ない品種も登場してきました。ただし、その場合は発芽が不均一になるため、やはり一定の休眠期間を設けます。
ドーマンシーが終わると大麦は、粒径により2,3段階に分けられます。これは、大きさを揃える事で吸水や発芽を均一にするためです。また、この時発芽性能や寄生虫テストなども行います。
こうしてようやく、第一段階が終了するのです!
第2段階「浸麦」
選麦が終わると、大麦を浸麦槽(スティープ)に移して、仕込み水に浸す事と、通気して充分な空気を与える事を繰り返します。これを「ウェット&ドライ」と呼びます。
この工程ではまず、汚れを除去し、その後水分を45%程度含んだ状態にします。この時重要なのが水と酸素です。水温は、12〜16℃程度の冷水を使い、酸素を充分に与え、呼吸で生じた二酸化炭素を取り除いてあげなければなりません。
第3段階「発芽」
浸麦が行われ、幼根が見え始めたら発芽床へ移動されます。
ここでは、高湿度かつ低温(12〜18℃)状態で麦粒の呼吸熱を冷やしつつ、空気を送り込んで酸素を供給し、5日〜1週間程度かけて発芽を促します。
この間、大麦の発芽や換気が均等に行われるように麦粒が絶えず攪拌されなければなりません。
そして、この時粒中にあるデンプン糖化酵素が活性化され、芽の成長と共にデンプンが麦芽糖などの糖分に変換されます。
要するに、酵母が食べやすい状態=アルコールに変換しやすい状態
に変換しているのです。
この工程は終了させるタイミングが重要です。なぜなら、芽を成長させすぎると、デンプンが消費されすぎてしまい、アルコールに変換する際の収集率に悪影響を及ぼしてしまうのです。
本来、植物が成長していくためにあるはずのデンプンと酵素を上手に頂戴して、美味しいウイスキーは出来上がるというわけです。人間はなかなかズルイですね(笑)
第4段階「乾燥」
発芽が終了すると、先の項の通り、成長を止める為に、大麦に温風を送って乾燥させ、水分をコントロールしなければなりません。
熱源をあて、水分を4〜5%に下げて保存性を高ます。これをする際、乾燥開始直後は温度を低く、徐々にを上げて麦芽の酵素力を落とさないよう温度管理する事がポイント。
この乾燥の工程で、ピートを使った燻煙により、香気付けを行います。
この香気付けにより、例えばアードベックだとかカリラだとか、煙いタイプのウイスキーが出来上がるのです。
第5段階「除根」
水分の再吸収を防ぐ事を目的として、乾燥した根を取り除きます。
この作業にはモルトスクリーナーと呼ばれる脱根機が使われる場合もあります。
また、乾燥させた麦芽をそのまま保管し、選別作業の時に実施する場合もあります。この工程は蒸留所によってかなりマチマチなのです。
削除した幼根はモルトカルムと呼ばれ、ペレット状に加工して家畜の飼料に利用されます。さすが無駄が全くないのは、自然の恵みへの感謝の現れですね。
関連するウイスキーコニサー資格認定試験をご紹介!
ここまでいかがでしたか?モルトについてご理解頂けたでしょうか?
知識をしっかり定着させるためにも、腕試しに、ウイスキーコニサー資格認定試験プロフェッショナルの問題を解いてみましょう!
ウイスキーコニサーとは
コニサーとは「鑑定家」の意味で、ウイスキー文化研究所が主宰する、ウイスキーに関するあらゆる知識、鑑定能力を問う資格認定制度です。
資格には3段階あり、第一段階の「ウイスキーエキスパート」に始まり、「ウイスキープロフェッショナル」、そして最終段階の「マスター・オブ・ウイスキー」と段階を踏んで取得していきます。
ウイスキーコニサーとは
ウイスキーコニサー プロフェッショナル過去問題
【問】植物の発芽には3つの条件がそろうことが必要である。そのうち大麦の製麦工程で発芽を止めるためにコントロールするものは何か?
解答とポイント
発芽に必要な3つの条件とは、水と酸素と適切な温度(12〜16℃)の事です。
発芽が完了すると、成長を止める為に、大麦に温風を送って乾燥させ、水分量をコントロールします。
いい頃合い加減に発芽した麦粒に熱源を当て水分を4〜5%に下げて、成長を止め保存性を高めます。※水分が5%以上では粉砕時に破りにくくなるため
よってこの問の答えは「水分」です。
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